レモン哀歌 高村光太郎詩集 (集英社文庫)

高村光太郎の詩とは祖父の本棚で初めて出会って以来、今まで数えきれないぐらい何度も出会ってきましたが、読み返す度にその深さが増すようで飽きる事を知りません。詩人であると同時に卓越した彫刻家でもある高村光太郎は、「彫刻は私の血の中にある。たとえ私の彫刻が良くても悪くても、私が宿命的に彫刻家である事にかわりはない。」という言葉を残していたと思います。詩作がその延長線上にある事は、刻むようなその言葉の確かさと力強さから明らかで、彼の血管を彫刻と詩が脈々と流れていた事を確信させます。詩人でも、職人でも、音楽家でも…人の心を深く揺さぶるような何かを生み出す事が出来る人達の血の中には、間違いなく“特別な何か”が存在していると思います。その“特別な何か”を人は才能と呼ぶのかも知れませんが、その才能の一部は「自分にはこれしかない」と言う逃げを許さない“覚悟”でできているような気がします。そして、当事者達は意識すらしていないかも知れないその“覚悟”が含み持つ想像を超えるような緊張と葛藤が感覚を研ぎ澄まし、誰かにとっての“本物”を生み出す事を可能にするのだろうと思います。…心から敬意を払わずにはいられません。学費と家賃に追われていた頃、古本屋でたぶん100円か200円ぐらいで購入した私の宝物です。